早期経営改善計画策定支援(バリューアップ支援事業。中小企業庁の案内では「Vアップ事業」とも表記)の利用申請では、金融機関の「事前相談書」を協議会へ提出します。事前相談書は、原則としてメイン行または準メイン行から取得します。様式は自由書式(原本)で、金融機関が作成するものです。ただし、金融機関が認定経営革新等支援機関として利用申請書に連名する場合は、取得・提出を省略できます。以下、中小企業庁・中小機構の「マニュアル・FAQ(金融機関を除く認定経営革新等支援機関用)Ver8.1」(令和8年3月31日改訂版)と、同日改訂の「手引き」に沿って整理します。なお、金融機関向けのマニュアルは別にあり、本記事は認定支援機関用の記載に基づきます。
事前相談書とは何か
事前相談書とは、申請者が本事業を利用して早期経営改善計画を策定することについて、金融機関が相談を受けたことを示す書面です。マニュアルのQ2-8は、この書面を「補助金の執行上必要とされています」としています(マニュアルPDF p.21)。
注意したいのは、書面の性格です。マニュアルは「事前相談書は、金融機関の計画策定への関与や今後の金融支援を約束するものではありません」と明記しています(PDF p.10)。銀行が融資や条件変更を確約する書類ではなく、「相談を受けた」という事実を示す書類です。
どの金融機関から取るのか
Q2-4「どの金融機関に事前相談に行けば良いですか?」への答えは、「メイン行又は準メイン行に事前に相談してください」です(PDF p.20)。手引きの添付書類一覧も「金融機関(メイン行又は準メイン行)の事前相談書」と書いています(手引きPDF p.3)。
では、メイン行・準メイン行とは何でしょうか。Q3-7は、「形式的な定義はなく、実情に応じて判断されます」と答えています(PDF p.27)。借入残高が一番多い銀行、という決まりが書かれているわけではありません。
関連して、次の2つの記載があります。
- 無借金経営でも利用できるか(Q1-2)。「決済口座を持つ金融機関等からの事前相談書の発行があれば利用できます」(PDF p.14)。
- 新規取引の金融機関は相談先になるか(Q3-7)。「決済口座の有無や今後の取引の可能性などを勘案し、相談先とすることができます」(PDF p.28)。
マニュアルの文言は以上で、「借入があること」を事前相談書の条件として明記した箇所は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。一方で、運用は協議会ごとに異なる可能性があります。次の「つまずきやすい点」も併せてご覧ください。
事前相談書が不要になる場合
手引きは、金融機関が認定経営革新等支援機関として計画策定への関与を希望する場合は連名で申請でき、「事前相談書の添付は不要」としています(手引きPDF p.2)。マニュアルも「金融機関が利用申請書に連名する場合は、事前相談書の取得・提出を省略することができます」と書いています(PDF p.10)。
逆に、金融機関が認定支援機関であっても、連名は義務ではありません。Q2-15は「連名での申請は必要ありません。金融機関には事前相談を受けて頂くことが求められます」としています(PDF p.24)。
| 状況 | 事前相談書 | 根拠 |
|---|---|---|
| 金融機関が利用申請書に連名する | 取得・提出を省略できる | マニュアルPDF p.10、手引きPDF p.2 |
| 金融機関は連名せず、相談を受ける立場 | 必要(原本) | マニュアルPDF p.19・p.24 |
様式は「自由書式」。ただし作成するのは金融機関
「事前相談書には決まった様式がなく、A4一枚で自作すればよい」という話を聞くことがあります。資料上、正確には次のとおりです。
- 別紙①、①-1、①-2のような番号付きの様式はありません。事前相談書は添付書類の扱いで、書式は「自由書式(原本)」です(マニュアルPDF p.19、手引きPDF p.3では「自由様式(原本)」)。
- 作成者は金融機関です。Q2-8の見出しが「金融機関が作成する事前相談書」で、作成例には「〇〇銀行〇〇支店」「支店長」と押印欄が入っています(PDF p.21)。
- 書面に書く内容として、手引きは「申請者が本事業を利用し、早期経営改善計画を策定することの相談を受けた」旨を金融機関が記した書面としています(手引きPDF p.3)。
つまり「自由書式」とは、書式に指定がないという意味です。会社が自分で作ってよいという意味とは、資料からは読み取れません。作成例には、次の趣旨が書かれています。
- 宛先は商工会議所・中小企業活性化協議会。差出人は金融機関の支店と支店長(押印)
- 下記申請者から早期経営改善計画の策定について事前に相談を受けた、という文章
- 当行は計画の作成に関与せず、将来の金融支援を約束するものでもない、という但し書き
- 記載事項は、会社名・代表者氏名・住所・電話番号
なお、この作成例は例示です。書面の細部は、金融機関や協議会の案内に従ってください。
金融機関に依頼するときの進め方
手引きは、申請者等が「金融機関に事前に本事業を利用し、早期経営改善計画を策定することを説明し、事前相談書を申請書に添付する」としています(手引きPDF p.2)。この記載と作成例から、実務の流れは次のように整理できます。
- 相談先の金融機関を決める。メイン行・準メイン行に、決済口座の有無なども踏まえて相談する。
- 金融機関に、本事業を利用して早期経営改善計画を策定することを説明する。事前相談書は、金融機関の計画策定への関与や今後の金融支援を約束するものではない(マニュアルPDF p.10)ことを、双方で確認しておく。
- 作成例にある会社名・代表者氏名・住所・電話番号を、金融機関が書面に記載できるよう伝える。
- 金融機関から事前相談書(原本)を受け取る。利用申請書の提出時に添付する。
- 計画案ができたら、金融機関に出す前に協議会へ計画案を提出し、助言を受ける(手引きPDF p.5 4(6)②、マニュアルPDF p.10)。
- そのうえで、事前相談書を発行してもらった金融機関に計画を提出する(手引きPDF p.5 4(6)③)。
4の事前相談書は、原本での提出が必要な書類です。Q2-1は、原本が必要な書類は電子メール等では送付できないとしています(PDF p.18)。持参か郵送になります。
5と6は見落としやすい点です。マニュアルは、計画案を金融機関へ提出する前に「必ず協議会に提出してください」としており、銀行へ直接出す順番ではありません(PDF p.10)。そのうえで、手引きは計画の提出先を「利用申請時に事前相談書を発出(又は連名で利用申請)した金融機関」としています(手引きPDF p.5)。Q2-4も、計画は「事前相談書を受け取った金融機関」または「連名で利用申請する金融機関」に提出するとしています(PDF p.20)。事前相談書の金融機関選びは、計画の提出先選びでもあります。
つまずきやすい点
会社が取ってきた銀行が、相談先として適切か
会社が付き合いのある銀行の支店に自分で頼み、事前相談書を取ってくることがあります。前述のとおり、メイン行・準メイン行に形式的な定義はなく、実情で判断されます。そのため、借入のある金融機関が別にあるのに、借入のない(決済口座だけの)銀行から事前相談書を取った場合、協議会から取引状況を確認できる資料を求められることがあります。これはマニュアルに明記された要件ではなく、運用上の注意として申し上げています。協議会によって扱いは異なり得ます。無借金経営の会社については、Q1-2のとおり、決済口座を持つ金融機関等の事前相談書で利用できるとされています。
対策は、依頼する前に、借入のある金融機関はどこか、決済口座はどこか、今後の取引の可能性はどうかを整理しておくことです。申請書の別紙①-1「申請者の概要」にも銀行取引の状況を書くため、そこに書く銀行と事前相談書の銀行がかけ離れていないか、事前に見ておくと安心です。
事前相談書を取れば銀行の同意も得たことになる、とは限らない
本事業では、「策定する計画に対して各金融機関から個別に同意を得る必要はありません」とされています。ただし「これを排除するものではありません」とも書かれています(マニュアルPDF p.11)。事前相談書は同意書ではなく、あくまで相談を受けたという書面です。計画の内容や方向性を金融機関と共有する場は、別に考える必要があります。
なお、申請から計画作成、伴走支援までの全体の流れは「早期経営改善計画の流れと必要書類」で整理しています。
よくある質問
事前相談書は会社が自分で作ってもよいですか?
資料上は、金融機関が作成する書面です。Q2-8の見出しは「金融機関が作成する事前相談書」で、作成例も金融機関名・支店長名・押印の形になっています(マニュアルPDF p.21)。書式は自由ですが、会社が作成してよいとは書かれていません。
無借金経営でも事前相談書は取れますか?
Q1-2は、決済口座を持つ金融機関等からの事前相談書の発行があれば利用できるとしています(PDF p.14)。ただし、実際に発行してもらえるかは金融機関の判断です。
取引金融機関が複数ある場合、全部から取る必要がありますか?
マニュアルのQ2-4は、メイン行または準メイン行に事前に相談するとしています。複数の金融機関から取得することを求める記載は、今回確認した範囲ではありません。計画の提出先も、事前相談書を受け取った金融機関(または連名の金融機関)です(PDF p.20)。
金融機関が連名で申請してくれる場合、事前相談書は本当に要りませんか?
マニュアル・手引きとも、連名の場合は取得・提出を省略できる、または添付は不要としています(マニュアルPDF p.10、手引きPDF p.2)。金融機関が認定経営革新等支援機関として、計画策定への関与を希望して連名する場合が対象です。
制度全体の相談先については、「横浜・神奈川の経営相談窓口の一覧と使い分け」もご覧ください。弊社の支援内容は「早期経営改善計画の策定支援」に載せています。
確認した一次資料
- 中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構「【金融機関を除く認定経営革新等支援機関用】経営改善計画策定支援事業(早期経営改善計画策定支援)<バリューアップ支援事業> マニュアル・FAQ 令和8年3月31日改訂版 Ver.8.1」。中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」ページ
- 中小企業庁「経営改善計画策定支援事業(早期経営改善計画策定支援)に関する手引き」(令和8年3月31日改訂)。同上のページ
- 「Vアップ事業」の表記の根拠。中小企業庁のお知らせ「早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業)及び経営改善計画策定支援(405事業)の手引き・FAQ等を改定等します」
最終確認日: 2026年11月4日
本記事は、公的機関の一次資料を確認した範囲で書いています。確認日以降に資料が改定されている可能性があります。個別の申請可否や事前相談書の取り扱いは、中小企業活性化協議会や専門家にご確認ください。
計算の考え方と出典の扱いについては「数字の扱い方」をご覧ください。

